「急に具合が悪くなる」の原作は、人類文学者と哲学者の鬼気迫る少々難解な書簡のキャッチボール。それを映画にすると言い放った濱口監督だったが、まさに「なめんじゃねーぞ」のセリフが監督の口から聞こえてきそうなくらい、近年の私の知る中で最高の映画でした。もちろん「ドライブ・マイ・カー」も素晴らしかったが。

あの原作をなんと認知症の介護現場に落とし込み、しかも精神病の問題も見事に絡めている。もちろん、がん患者の末期にどう向き合っていくかも丁寧に描かれている。

回復の見込みのない入居者たちを看る介護施設は行き詰っている。
不可能の山積みだ。
どう、可能にするか。
難しい問題を話し合う現場の人々のセリフは現実に真っ直ぐでクリアですごくわかりやすい。
観ていて認知症についても十分学べ、どう対応するのが有効なのかも知ることができる。たとえば、視野が狭くなっているので、見えないところから摑まれたら当然抵抗する。だから視線の高さを同じにする、上から摑まない、肩などから触れる、視野からはずれるときは今行っていること(例えば下の世話)をやさしく説明し続ける。スキンシップの大切さ。部分的な記憶ははっきりしているから突然昔の職場に行こうとしたりするなど。
方や、そうはいっても家族は健康だったときの記憶があるだけに納得がいかない現実。
そんなこんなが混沌とするが、認知症患者の「点線の記憶」に「まだまだ」生きて意思があることを実感させられるのだ。
とにかく二人の俳優だけでなく周りのすべての演技者が素晴らしく、ずっとウルウルしていた3時間16分。途中トイレに行きたくなったらどうしようと思ったが、そんなことを心配する間もなく集中し、あっという間だった。